年々明るくなる夜空を身をもって体感している天文屋。 光害(ひかりがい)に最も敏感な僕ら天文屋から、率先して「光害対策」を普及啓発していきたいと思うのです。
光害(ひかりがい)とは、良好な「光環境」の形成が、人工光の不適切あるいは配慮に欠けた使用や運用、漏れ光によって阻害されている状況、またはそれによる悪影響と定義する。 ■ 環境省:「光害対策ガイドライン(平成18年12月改訂版)」より。
良好な「照明環境」の形成が、漏れ光によって阻害されている状況又はそれによる悪影響を「光害(ひかりがい)」と定義する。狭義には、障害光による悪影響をさす。 ■ 環境省:「旧光害対策ガイドライン」より。
■ 詳しい解説 -≫ 光害(ひかりがい、こうがい) - Wikipedia
左の画像「定点撮影」を見てください(クリックで拡大)。これは、2000年に富士山の標高2400m付近で撮影したもの。(画像解説参照) その下の画像は、人工衛星から見た世界の明るさをカラー表示したもの。黒が最も暗く、グレー→青→黄緑→黄→オレンジ→赤…と明るさが増し、白い部分が最も明るい箇所を表しています。 日本列島は、北海道も本州も九州もすべてが繋がり飽和状態になっています。まさに光の渦中!(韓国と九州の間がかなり明るいが、これはイカ釣りの漁火だと思われます) 日本は光の渦中。世界で最も明るい国なのです。
なぜ照明が必要か。 1. 視認のため。 2. 防犯・安全のため。 3. 装飾・演出のため。 これらはすべて必要なものです。 一般住民・事業者・自治体への普及啓発に際し重要なのは、「光害防止=照明をすべて消す…ではない」ということ。適切な照明を実現することが光害対策なのです。 では適切な照明とは…? それは目的配光により天空への光漏れを防ぎ、必要な光だけ照射し、エネルギーロスとなる上方向への漏れ光を限りなくゼロに抑える照明環境のこと。 すなわち、 1. 地上の視認のために夜空を照らす必要はない。 2. 地上の防犯のために夜空を照らす必要はない。 3. 夜空を照らさなくても装飾・演出はできる。 3 について、そもそも照明デザイナーは「高い照明率の達成と省エネルギー化を念頭においてデザインをするべき」だと思います。本来デザインとはそういうものでしょう。 一部のラブホテルやバッティングセンター等遊技場がサーチライトをぶんぶん振り回して客寄せをしています。 あの照明デザインは本当に効果があるのでしょうか…? 町に林立する自動販売機は、ああも眩しく点灯している必要はあるのでしょうか…? メディアの「ライトアップ賛美」。確かに華麗なライトアップは美しいと思います。でも、そのライトアップは本当に必要なものなのでしょうか…? スキー場のナイター照明はゲレンデを照らすのが目的であるのに、なぜあれほど眩しいのでしょうか…?
■ ところで… 毎年思うんですけど、元々積雪の少ない地域に無理やり作ったスキー場では、春先まで人工降雪で粘っているところがあります。周囲に積雪がなくなっているにも拘らず。かなり無理がある気がします。
光害の問題は、僕ら天文屋だけの問題ではありません。 光害のおよぼす影響を思いつくところを挙げてみました。 1. 夜空や夜の町の景観を損なう。 つまり夜空が明るくなり星が見えなくなる。 2. 生態系への悪影響 つまりある種の動植物の生態に害を与える。 3. エネルギーの無駄遣い つまり電気を大量に無駄遣いしている。 夜空が明るくなり星が見えなくなるのは僕ら天文屋の切実な死活問題。でもそれ以外にも光害の悪影響はあります。 一般の人たちの関心は、むしろそっちかもしれません。 僕ら天文屋は、おそらく光害に最も敏感な人種であると思います。やはり天文屋が率先して「光害対策」を普及啓発していかなければ…と思うのです。
行政側でも光害対策の普及啓発が行われるようになってきました。 ■ 環境省 - 大気汚染・自動車対策(環境管理局) ■ 環境省光害対策サイト ■ 光害対策ガイドライン(平成10年3月) ■ 光害対策ガイドライン(平成18年12月) ■ 地域照明環境計画策定マニュアル(平成12年6月) ■ 光害防止制度に係るガイドブック(平成13年9月) 環境省環境管理局大気生活環境室 ■ 全国星空継続観察(スターウォッチングネットワーク) 環境省こどものページ
環境省の施策に基づき、条例化し取り締まる自治体も多くなってきました。その一部を紹介。 ■ 岡山県井原市美星町 - 光害防止条例 ■ 佐賀県 - 環境の保全と創造に関する条例 ■ 群馬県高山町 - 光環境条例 ■ 八王子市サーチライト等使用禁止に関する条例 ■ 大分県 - 美しく快適な大分県づくり条例 ■ 三鷹市光害対策指導指針
一般市民への普及啓発活動に尽力されている団体や天文同好会。 ■ 国際ダークスカイ協会 ■ 国際ダークスカイ協会(日本セクション) わかばだい天文同好会 ■ しなの星空散歩会 きらきら ■ 光害調査 - 星空からのメッセージ - しなの星空散歩会きらきら・長野市立博物館 ■ 光害防止委員会 アストロメーリングリスト
光害対策に関する理解をより深めるため参考になるサイト。 ■ 光害で夜空から星が消える? ■ 日本照明情報サービス - 光害・環境特集 ■ 柏プラネタリウム・光害の部屋 ■ 熊本県民天文台・星空の見えるまちづくり ■ 三鷹市環境クイズ(光害)問題 ■ DMSP衛星によるNighttime Lights of the World ■ EO Newsroom - Earth's City Lights ■ 光害ますます深刻化。天文学者達が全人類へ警鐘 ■ Light Pollution in Italy ■ The night sky in the World
肩肘張らずに光害対策。参考サイト。 ■ 100万人のキャンドルナイト ■ あかりをきっかけに温暖化防止を考えるサイト
光害対策ガイドラインに適合した照明器具も増えてきました。 これらの器具は、目的配光により天空への光漏れを防ぎ必要な光だけ照射し、エネルギーロスとなる上方向への漏れ光を0〜5%以下に抑えています。 上方光束を抑え下方光束へ配光制御することで、高い照明率の達成と省エネルギー化を実現することになるのです。 ■ 松下電工 光害(ひかりがい)対策ガイドライン適合商品 ■ 東芝ライテック 光害(ひかりがい)対策ガイドライン適合商品 ■ 岩崎電気 ■ ERCO ドイツの照明メーカー。光害対策ページ -≫ Dark Sky
定点撮影(富士山富士宮口新五合目) (クリックで拡大) 衛星画像 (クリックで拡大) 日本列島付近の拡大画像 (クリックで拡大) 日本列島付近の拡大画像 (クリックで拡大) 富士山の五合目から見下ろした夜景。町明かりで駿河湾の岸の輪郭がくっきりと判るほど。@富士山新五合 稜線の向こう側が一際眩しい。東京の明かりです。@富士山新五合目 雲が明かりを反射して光っています。雲の下に町があるのです。@長野県川上村 地平線の彼方に一際明るい部分があります。大きな町があることを示しています。@茨城県里美村 スキー場のナイター照明@野辺山。あまりの眩しさに驚きます。手前にあるのは国立天文台野辺山電波観測所。 左隅に別のスキー場のナイター照明も見えます。 (写真提供: むつらぼし) 八ヶ岳の冬の夜景。一際眩しいのがスキー場のナイター照明。@長野県野辺山高原 野辺山高原より見た八ヶ岳。昼の光景が…↓ 夜になるとこのような光景に…。スキー場のナイター照明が眩しい。露出時間はわずか一分。(クリックで拡大) 美ヶ原高原から見た松本市の夜景。露出時間はわずか一分。(クリックで拡大) 眩しい自販機の照明。
[ update: 2007.03.11 ] PAGE TOP ▲