航空機を使う海外遠征において、機内に預ける“荷物の重量制限”にはいつも悩まされます。
カメラ・レンズ・望遠鏡・赤道儀に三脚等々…国内で日頃使っている機材をあれもこれもと持っていくことはできません。天文屋はオーストラリアやニュージーランド方面に遠征することが多いのですが、オセアニア方面航空機における預け手荷物の重量制限はかなり厳しいことになっています。
■ 日本-オーストラリア国際線エコノミークラスの場合
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預け荷物: 20kg以内 |
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機内持込み手荷物: 縦・横・高さ3辺の和が115cm以内のカバン1個まで。かつ1個あたり7kg以内 |
■ 詳しくはこちら。
超過荷物に関しては超過料金がかかってしまうため、荷物をパッキングする際の重量にはとても気を遣います。僕の場合、ヘルスメーターを利用しながらパッキングをしています。
ポータブル赤道儀、望遠鏡、カメラ、レンズ、三脚等々…調子に乗って詰め込みすぎると、あっという間に重量オーバーになってしまいます。スーツケースは内容積が大きいので、かなりの量がパッキングできてしまうのです。
意外と忘れがちなのがスーツケース自体の重量です。例えば、定番SamsoniteのABS樹脂製アイディのMサイズ(縦72×横54×幅26cm)が6.6kg。
ちなみに、ポータブル赤道儀の代表格スカイメモRは約3kg、ペンタックス67ボディ(TTLファインダー付)1.76kg、スリックのカメラ三脚グランドマスター3.7kgといった具合。ここは1kgでも惜しいところです。
僕の場合、初海外遠征当時に迷いに迷い、最終的にドイツ製のRIMOWAを選びました。ジェラルミン製の軽量かつ堅牢なスーツケースは世界中に多くの愛用者がいます。
うちのやつは、トパーズシリーズで縦70×横47×幅25cmの重量5.2kg。上記に挙げたABS樹脂製と同規模の大きさにもかかわらず1.4kgも軽いのです。
さらに、パッキングの際にクリティカルになるのが三脚の長さです。購入当時、PENTAX MS-3N赤道儀の三脚を収納することが最優先条件だったので、カバン屋に三脚持参で(←重要)買いに行ったものでした。
ジェラルミンの金属ボディは、大きな衝撃を与えると凹みます(=衝撃を吸収してくれている)。
遠征の度にボコボコになっていきますが、大きな凹みは内側から叩けば元に戻ります。樹脂のように本体が割れたりすることがないので、パーツの交換さえしていけばかなり長く使える逸品なのです。
表面のキズもまた味で、段々と風格が出てきます。遠征のたびに、現地の土産モノ屋で買うステッカーを貼り付けていくのも一興です。(海外遠征の恒例行事)
なお、機材の緩衝材には基本的に衣類を兼用。バランスウェイトは“ペットボトルに水”で代用したり、乾電池等現地調達できるものは極力パッキングしないこと。
20kg…。積めれば解る“たったの20kg”なのです。
■ RIMOWA
■ リモワ日本輸入正規代理店 (株)林五 |
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旅の相棒。リモワのスーツケース。
ボディにはリブ加工が施されており、隅角部は強固なガードパーツに守られている。
鍵や取っ手部分は本体と面一化されており、突起部分は極力少なくなっている。運搬中の様々な衝撃を避けやすい設計。
機内預け用のスーツケースと持ち込み手荷物カバン(上の黒いカバン)。カメラとレンズ類は持ち込み用のカバンに入れている。青いのはペットボトルホルダー。 |
海外遠征時に気を遣うことの一つが“空港でのX線検査”。
大切なフィルムは慎重に扱いたいもの。低感度フィルムでもX線チェックには通さないにこしたことはありません。“ISO1600までOK”と検査装置に書かれていようと、検査官が"No Problem."と言おうと、それは無事故を保証してくれるものではありません。
フィルムは露光しているいないにかかわらず、スーツケースなど“預け入れ荷物”には絶対に入れてはいけません。“預け入れ荷物”用の検査では、強いX線照射を受けることになるので必ず“機内持ち込み手荷物”にします。
写真用品店で売っているX線防止用の鉛袋があれば安心…かと言えばそうでもありません。X線防止袋に入れることにより、検査装置で中身が見えづらくなってしまうため、さらに強力なX線照射を受ける可能性があるらしいのです。この場合、X線防止袋は何の役にも立たないばかりか、反って逆効果になってしまう恐れがあります。
以前、スナップを撮ったフィルムを(故意に)何度かX線検査に通したことがありますが、その時は特に問題はありませんでした。でも、これが微細な光を写し撮った天体写真フィルムに通用するかはわかりませんし、試してみる勇気もありません。
■ 試みた方がおられたらぜひ教えてください。
特に、2001年9月11日の米テロ以降急速に各国空港に普及している新型のX線チェック機EDSには絶対にフィルムを通してはいけません。(フィルムの感度に関わらずズタズタの傷物にされてしまうとの噂あり)
EDSの製造メーカーの一つ、InVision社の装置には“InVision”や“CTX”と書かれておりEDSかどうか判別可能とのことです。(アサヒカメラ2003年1月号より)
■ EDS = Explosive Detection System
“機内持ち込み手荷物”でもX線検査を受けますが、“Films. (フィルムです)”と言って、Hand inspection(手検査)を受けるのが最も安心です。検査を受けやすいように予め別の透明のビニール袋等に入れ、中身が見やすいようにしておきます。スムーズな手検査を受けられるように準備しておけば、検査官をイライラさせずに済みます。
中判ブローニーや大判シートフィルムなどは、パッケージからして一般的なフィルム(パトローネに入った35mm判フィルム)とは違い、時に説明(英語)が必要になります。自分の写真は自分で守らなくては。こういったときの気軽さは圧倒的にデジカメが勝りますね。
恥ずかしながら武井は英語が堪能ではありません。
とにかく、“Hand inspection,please.”,“Hand inspection without X-ray.”,“This is only film.”,“Large size format film”,“very delicate film”etc...とありったけの語彙を連発します(かなりテキトウ)。
これでまず問題無いんですが、稀にフィルムケース一つ一つまで開封チェックされることもあります。未開封のフィルムケースもすべて開封させられたときには頭にきましたが、検査官を怒らせて良いことは無いので、涼しい顔でやりすごすことにしています。
そんなわけで、搭乗手続きは時間の余裕を持ったほうがいいでしょう。
■ まとめ
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フィルムは感度に関わらず“預け入れ荷物”には入れず、“機内持ち込み手荷物”にする。 |
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“機内持ち込み手荷物”の内、フィルムは予め透明な袋に入れておき、手検査(Hand inspection / Hand check)を受ける。 |
■ コダック 空港でのX線検査
■ コダック 空港のX線検査 (映画用フィルム)
■ コダック 新型X線検査装置 (映画用フィルム)
■ 富士フィルム 空港でのX線検査について
■ コニカミノルタ 空港でのX線検査について
■ Kodak Baggage X-ray Scanning Effects on Film
■ Kodak Baggage X-ray Scanning Effects on Film
印刷用PDF
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この様に透明な袋に入れ、中身がフィルムであることが一目で判るようにしておきます。
もし英語がしゃべれなくても、“Do Not X-ray”と書いてあれば、最低限の意思は通じるはず。
下記のFAA Reg 108.17の文言が書かれた紙(アサヒカメラの記事のコピー)をフィルムと一緒に入れています。幸い今まで一度もこの紙を利用する機会はありません。
The FAA provides air travelers in the United States the right to request a non-xray inspection of photosensitive products in FAA Reg 108.17 (PART 108--AIRPLANE OPERATOR SECURITY) The complete regulation is very informative but section Part 108.17e is the most important to travelers carrying film. THIS ONLY APPLIES TO AIR TRAVELERS FLYING IN THE UNITED STATES.
FAA Reg 108.17 (PART 108--AIRPLANE OPERATOR SECURITY)(e) No certificate holder may use an X-ray system to inspect carry-on or checked articles unless a sign is posted in a conspicuous place at the screening station and on the X-ray system which notifies passengers that such items are being inspected by an X-ray and advises them to remove all X-ray, scientific, and high-speed film from carry-on and checked articles before inspection. This sign shall also advise passengers that they may request that an inspection be made of their photographic equipment and film packages without exposure to an X-ray system. If the X-ray system exposes any carry-on or checked articles to more than 1 milliroentgen during the inspection, the certificate holder shall post a sign which advises passengers to remove film of all kinds from their articles before inspection. If requested by passengers, their photographic equipment and film packages shall be inspected without exposure to an X-ray system. |
アメリカ連邦航空局では、航空機の旅客にフィルム製品の非X線検査を要求する権利を付与しています。
あくまでアメリカ内の航空機の旅客向けの規定なので、この文言が他国で通用するかは不明です。また、これを提示しても無視されることもあるようです。
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大切なフィルムは慎重に扱いたい。低感度フィルムでも空港のX線チェックは通さないにこしたことは無い。
ということで、もっとも安全なのが“現地現像”。
撮影済みのフィルムはできるだけ速やかに処理した方が良く、撮った国で現像してしまえば面倒な空港でのやり取りの心配は無くなります。どこの国にも職業カメラマンはいるわけで、彼らが撮ったフィルムを取り扱うプロラボがあります。
フィルムの現像処理は基本的に世界共通。ポジならE-6処理、カラーネガならC-41処理と決まっており、どこで現像しても仕上がりは同じです(のはず)。
■ エクタクローム・フジクローム → E-6処理
■ コダクローム → K-14処理
■ カラーネガ → C-41処理
2003年に西オーストラリアへ遠征した際に、渡航前に調べておいたパースのプロラボに現像を出しました。店構えこそ違えど、処理や迅速さは日本と変わりはありません。もちろん仕上がりも問題ありませんでした。
パースにある"Churchill Color Labs"(場所は下記リンク参照)で、35mm判〜4×5判ポジ・ネガ・B/Wの処理およびポジの増感処理が可能でした。(2003年5月時点)
■ Pro Galleries
Participating ProGalleries Labs オーストラリア・ラボリスト (参考)
■ Atkins Technicolour @Fullarton Road, Kent Town, SA
現像価格表 PDFデータをDLできます。(参考)
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パースで利用したプロラボ"Churchill Color Labs"。閑静な住宅街にあり、プロラボらしからぬ瀟洒な佇まい。注意していないと素通りしてしまいます。
店先にはレトロなフェアレディZが停められてました。ラボの店員のものだったのかな…?
伝票には、E-6・C41・B/Wそれぞれの納期や増感の指定(+2)が書かれています。
ちなみに“No Backing”とあるのは、“120の裏紙を外しています”の意味。裏紙を外すなんてことは普通はしないので、かなり変わった客だったようです。
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